Dr.Tの不思議の謎を解かねばならぬ


其の壱アポロは月に行ってない?


Dr.T:諸君、ワタシがDr.Tである。近頃嘆かわしいことが続いておる。政治家の汚職とか、外務省の腰抜け行為とか…。しかし何より嘆かわしいのは、アポロが月に行っていないという話が最近ネットなどで聞かれることだ。どうもある※1テレビ番組の影響らしいが、しかし誰がどう考えてもこれはおかしな話である。ええ?そうは思わんかね?

助手:しかし、ドクター、実際月に行ってない、って話には結構信憑性がありますよ?

Dr.T:ああ、嘆かわしい!君までそんなことを言うなんて・・・。間違い無くアポロは月に行っている!!

助手:・・・見たんですか?

Dr.T:見てはおらん!しかし、見ていないからといってそれを信じない、というのは科学の敗北ではないかね?ワタシは酸素を見たことがないが、こうして呼吸はできているぞ。

助手:でも科学は実証が不可欠では・・・。

Dr.T:よかろう。では実証してみよう。アポロが月に行っていないという根拠はどうやら月でとられたという写真のせいらしい。例えば空気のない月の上でアメリカ国旗がなぜはためいていたか?とか、月面に映った影が放射状になっていてそれは光源が複数ある証拠だとか言われているらしい。こんなものは簡単に論破できる。

助手:そ、そーなんですか?

Dr.T:まず、空気の無い月面で旗がなぜはためくか、という疑問だが・・・、これはもうとても簡単な話だ。空気が無くても旗ははためくのだ!

助手:ええええええ〜!?

Dr.T:無重量の宇宙空間では逆に旗はへんてこな形にうねうねと動くだけだが、地球を1とすると月の赤道重力は0.17だ。つまり多少なりとも下に引っ張られる。しかも写真を良く見てみるがいい。旗には横棒があるだろう?

助手:た、確かに・・・。

Dr.T:これは真空中の月でいかに旗を「見せる」か工夫されたものだ。横棒により張られた布は弱いとはいえ重力に引かれ垂れ下がる。しかし、ここで宇宙飛行士が旗をちょいと揺する。するとどうだろう?旗に伝わった「波」はうねうねと旗の表面を進んでいくのだ!

助手:ああ、そうか海の波と同じですね。

Dr.T:良く気づいた。海面に発生した波は波紋として同心円状に広がっていく。もちろんそれは波が起こった直後の振動のみを伝える。もう一度写真をよ〜く見てみたまえ。

助手:・・・・あああ、旗が大きくうねっているのは旗の外側で、支柱に近い部分は逆に平たくなっています!

Dr.T:そう。人工的に起こされた波はすぐに消える。おそらく格好の良い旗を撮影するために宇宙飛行士は支柱を少しばかり揺らしたのだろう。それが今ごろになって月に行ってない証拠にされるなんてオルドリンも気の毒に・・・(泣)

助手:でも、でもでも、他の細かい表面のうねりは?ただ手で揺らしただけでこんなに細かく揺れますかね?

Dr.T:太陽風と光圧というものを知っているかね?

助手:・・・・なんですか?ソレ?

Dr.T:太陽から放射される光はその膨大な量で、一種の圧力を形成している。つまり光でものが押せるのだ。

助手:そ、そんなバカな!?僕は今まで太陽の光が黄色く見えたことはあっても太陽の光に押されたことはありませんよ!?

Dr.T:もちろん、通常では気づかれないほど微弱だし、地上では分厚い大気がそれを阻んでいる。しかし月面は?

助手:・・・大気もほとんどなく、重力もおよそ6分の1・・・ど、ドクター!?

Dr.T:そう。そういうことだ。弱い重力下で軽いものは光に押されることもありうるのだ。実は※2彗星の長大な尾も太陽風で形成されると言われている。

助手:ドクター(泣)・・・す、すいません、一瞬でも科学を疑ったりして・・・。

Dr.T:宇宙には多くの不思議がある。疑うことが科学の発展の最初の1歩だ。疑問は常に持たなくてはならん。大事なのはきちんと検証し、他人の話をうのみにしないことだ。

助手:でもそれじゃあ、Dr.Tの言うことも・・・。

Dr.T:もちろんうのみにしてはいかん。

助手:じゃあ信じません。アポロは月に行ってません!

Dr.T:こ、こいつ・・・(怒)

助手:だって影はどうなんですか?これを見てください!

Dr.T:・・・これが?

助手:だって良く見てくださいよ。着陸船の影は真横に伸びているのに、手前の石は斜めに伸びているじゃないですか!これは複数の光源で取られた証拠でしょ?

Dr.T:・・・嘆かわしい。どうしてこんなのを助手にしているのかなぁ・・・。

助手:はぁ?こっちこそ嘆かわしいですよ。答えられなくなったら個人攻撃ですか?答えてください!

Dr.T:じゃあ、着陸船と手前の石は別のライトで照らされているんだな?

助手:そうとしか思えないじゃないですか!

Dr.T:じゃあ、着陸船を照らしているライトは石に届いてないのか?

助手:へ?

Dr.T:グラビアモデルを撮影するときに影を消すために複数のライトを当てる。そのときに影は当てたライトの数だけ伸びるぞ?

助手:・・・・え?それは?その・・・。

Dr.T:石に複数の影が伸びているか?

助手:・・・・あ!ち、違う。これは複数の光源で撮ったんじゃない!

Dr.T:そうだろう。そうだろ…

助手:スタジオ内で近い光源で撮ったものなんだ!だってそうでしょう?太陽はえらい遠いからその光はほとんど並行に進むんだから、影も並行になる。でも並行に影がならないのは光源が近いからだ!

Dr.T:・・・・・。

助手:ついに言葉を失いましたね。これでアポロ計画のウソが証明されたってわけですね♪

Dr.T:あきれとるんだ!

助手:わぁぁあぁ!?

Dr.T:並行でない=近い光源だと?この写真からその程度しか読みとれんのかこの愚か者が!もともと地球上ですら、影は並行で無いように見えるものなのだ!

助手:そ、そんなバカな〜!?

Dr.T:我々の目は距離に合わせて物を見るようになっている。脳もその画像に慣れている。これを忠実に再現したのが遠近法と呼ばれる描き方だ。

助手:び、美術の講義ですか?

Dr.T:黙って聞け!遠近法では近いものは大きく、遠いものは小さく描く。では碁盤の目の街を描いてみろ。

助手:ええ、絵は得意ですよ。

Dr.T:道は斜めに交差するように描けよ。

助手:そんなの簡単・・・・あれ、・・・・・・あれれ?

Dr.T:どうした?

助手:い、いえ・・・。

Dr.T:道が並行に描けないで困ったか?

助手:ドキ!

Dr.T:手前の道と奥の道、並行のはずなのに手前は斜めに、奥は地平線とほぼ水平になってないか?

助手;ドキドキ!

Dr.T:その道の交差した感じは、さっきの写真の影の具合とそっくりじゃないか?

助手:ど、どーいうことなんです?

Dr.T:いいか、月は小さい。地球の約0.27倍しかない。そのため我々の慣れ親しんでいる遠近法の光景とははるかに極端になっているんだ。ましてやまわりに比較するものは何もない。手前の影と奥の影の角度の違いなんぞ、良く晴れた日にグラウンドで野球を見ているだけで体験できる。

助手:こ、この地球上でも?

Dr.T:もちろんだ。しかしこの写真の意味はそれだけじゃない。いいか、はるか遠くの着陸船がしっかり映っているな?

助手:ええ、不自然なくらいに。

Dr.T:そのとおり!不自然なんだよ!

助手:ええ?イヤミで言ったのに・・・?

Dr.T:なぜ不自然かわかるかね?

助手:え?ええー?

Dr.T:分からなければこっちを見たまえ。ただしすごく重いのでADSL以外の人は覚悟するように。

助手:あ、あー!ぶ、ブレているっていうかピントが甘い!

Dr.T:そこはあんまり重要ではないが(^^;) まぁ、いいだろう。他には?

助手:えー、だって、なんだかどう見たって着陸船が模型みたい、宇宙飛行士はフィギュアみたいに見えますよ。

Dr.T:そこだ!

助手:え?どこどこ?

Dr.T:そうじゃない。そのまさに模型みたい、フィギュアみたいに見えることこそが、この写真が月で撮られた証明なのだよ!

助手:いくらここが模型のHPだからってそんな・・・。

Dr.T:模型やっている者ならたいがいこのへんで気付くものだがなぁ・・・。

助手:どういうことです?ギャグじゃないんですか?

Dr.T:例えば本物そっくりに造られた10分の1の模型があったとしよう。写真に撮るとどうしても陳腐に映る。それはなぜか?

助手:でかいはずの戦車を上から撮ったりするとリアリティーに欠けますよね。

Dr.T:ふむ、他には?

助手:他・・・?なんか塗装がてかてかしたり、※3デカールの段差があったり・・・。

Dr.T:そうか・・・やっぱり本能でしか生きてないのだな・・・(泣)

助手:だって、大きい実物を小さい模型にしちゃえばどうしたって不自然でしょ?本物は何mとあるわけだし・・・。

Dr.T:そこだ!

助手:どこだ!?

Dr.T:ちがうっての(^^;) 本物は何mとある、そこだよ。本物とそっくり造られた模型と本物との写真における差異はたった一つ。そう・・・、距離だ!

助手:距離?

Dr.T:そう。距離。本来10m離れて撮った写真は10分の1の模型だと1mで済む。

助手:それは理屈ですねぇ。

Dr.T:しかしその距離こそが、模型を陳腐に見せる要因でもある。

助手:なぜ?近い方がはっきり見えるでしょ?

Dr.T:今なんと言った?

助手:へ?いや、だから近い方がはっきり見えるでしょ?って・・・。

Dr.T:そのとーーーーーーりっ!地上では近い方がはっきり見える。逆に遠いとはっきり見えない。

助手:当たり前です(怒)!

Dr.T:なぜ?

助手:え?・・・・・そういや・・・・、なぜ?

Dr.T:間にあるものを考えればいいのだ。

助手:間って・・・、空気しか・・・・!!空気!?

Dr.T:そのとおり。空気だ。※4空気には光を乱反射する作用がある。そのため昼間の空は青いし、夕焼けは赤い。

助手:プリズムと同じ作用ですね。

Dr.T:そう。ようやくわかってきたようだな。つまり我々が毎日見ている風景も必ず空気の分厚いフィルターを通してみているから、遠くになればなるほど多少青みがかる。これを「空気遠近法」と言って、模型・絵画の世界では常識だ。

助手:写真、白黒ですけど・・・。

Dr.T:色で言えば青みだが、色が無くなれば要は遠くのものほど空気に邪魔されて見づらくなるのだ。しかし、この写真遠くも近くも同じように見える!

助手:と言うことは・・・?

Dr.T:この写真がどこであれ、空気の非常に薄い場所で撮られたということだ。

助手:で、でも空気を抜いた真空のスタジオで撮れば・・・?

Dr.T:・・・1気圧ってものをそうとうに軽く見ているな?建物を密封して空気を抜けば真空に耐えきれず建物はつぶれてしまう。現在の我々の科学力では真空の巨大スタジオを作る方が宇宙に行くよりはるかに困難だよ。

助手:そーなんですか・・・。すると本当にアポロは月に行ったんですか?

Dr.T:当たり前だ。アポロは月に産業廃棄物のような着陸船の下部と月面車だけを置いてきたのではないぞ。ちゃんとレーザー側距儀を置いてきている。そのおかげで地球と月との正確な距離が測れるようになったし、月の石も持ちかえっている。月が地球との距離を年々広げている、ということがわかったのも、月に思った以上に水(氷)があると分かったのも、月探査の努力の結晶だ。クレメンタイン探査機やルナ・プロスペクターといった無人探査機が月に行けるのも、アポロ計画あっての賜物だ。

助手:ええー、でもそれじゃああまりに夢が無い・・・。

Dr.T:ばかもの!夢ってのは先人の偉業を否定することか?そんな夢なら最初から無い方がいいわ!

助手:でも、月に行って何の意味があったんですか?現にもう何十年も月へは行ってないじゃないですか。だから疑われたりするんですよ!

Dr.T:確かに、アポロ計画は冷戦の真っ只中、ソ連に大きく水をあけられたアメリカが起死回生の大博打として行った国威掲揚のプロジェクトだった。最初から目的は「月に行く」それ以上でもそれ以下でもなかった・・・・。しかしな、

助手:しかし?

Dr.T:かつて、大航海時代と呼ばれた頃に多くのヨーロッパ人が海の果てに怪物がいる、海が途中で切れていると恐れて大海原に乗り出すことをためらった。結局借金を抱えた食いつめ者や一攫千金を狙うもの達が大海原を越えて各地に乗り出していった。彼らの業績と言えば虐殺と略奪と伝染病の拡大くらいしかない。しかし!

助手:しかし!?

Dr.T:彼らは証明したのだ。迷信を乗り越え、海は渡れるものだということを!そして月へ行った先人達は何を残したか!?

助手:ああっ!

Dr.T:そう!宇宙と言うはるかに過酷な広大無辺な大海原ですら、渡れることを証明したのだ!きちんとした準備と研究さえあれば人類は他の惑星に行くことすら可能な知識を手に入れたのだよ。それをいんちきだのトリックだのは笑止千万!いや、命がけで星の海を渡った先人に対して無礼極まりない!

助手:・・・・・・。

Dr.T:宇宙は過酷だ。酸素も水も無く、宇宙船の外は放射線と超高温と超低温がうずまく真空の世界。もし、事故が起こったとしても、ほとんど救助は望めない。

助手:後からロケットを打ち上げれば・・・。

Dr.T:宇宙空間で月ロケットは秒速11km以上で飛んでいる。追いつくためにはそれ以上の加速を必要とするが、現段階では宇宙ステーションに燃料を確保しない限りは不可能。そして※5宇宙ステーションは現在第1号機が作られている真っ最中だ。

助手:ってことは・・・。

Dr.T:そう。宇宙飛行士達はそれを知っていて、何かあれば命が無いと分かっていてそれでも月を目指したのだ。

助手:あああああ、ど、ドクター!ぼ、僕が間違っていました〜! アポロは、アポロは月に行っていますぅ〜!もう、アポロを否定しません!人類の、科学の進歩を疑いませ〜ん!(号泣)

Dr.T:うむ。アポロ計画は、のべ40万人、総額約250億ドルを投入して、27人を月へ送り、 そのうち12人が月面に降り立った。さまざまな観測や調査が行なわれ、 400kg強の月の石が地球に持ち帰られている。以下はそのデータだ。よく覚えておくように。

寸法
(アポロ17号)
直径3.9m×高さ350mの円錐形状(司令船)
直径3.9m×高さ4.6mの円筒形状(サービス・モジュール、ノズル含まず)
幅(脚対角)9.5m×高さ7m(着陸船)

質量
(アポロ17号)
5.843t(司令船:打ち上げ時)
24,5t(サービス・モジュール:打ち上げ時)
16.4t(着陸船:打ち上げ時)

推進系
A50/NTO2液式 91,840N(サービス・モジュール)
A50/NTO2液式 4,700〜43,900N可変(着陸船降下)
A50/NTO2液式 15,500N(着陸船上昇)
姿勢制御用スラスタ
 
その他
ルナ・ローバ搭載(アポロ15〜17号)
司令船は地球大気投入後はパラシュート降下
着陸船は降下用と上昇用に分離
着陸脚による設置
着陸船は司令船+サービスモジュールと地球軌道上でドッキング



※1爆笑問題が司会?やっているアレ。第1回から見ていたが、最近あきれて見ていない。だって座敷わらしの出る宿に出たって光の玉がどうみてもレーザーポインターだったりやらせが見え見えでトンデモっぽい番組。あんなの信じるなってば。

※2すっごい長くなり、大きなものでは数千kmになるとか。1910年のハレー彗星の大接近(前々回)では、この尾に地球が入るので空気が無くなると信じられた。自転車のチューブが売れ(空気ボンベがわり)学校では息を止める訓練が行なわれたのはあまりに有名。

※3プラモデルについてくる、水で糊を溶かし貼るシール。最近は水につけないものもある。

※4チンダル現象という。光の乱反射により本来光らないものが発光して見えるような現象を指し、液体での実験が有名。太陽光が部屋に入ってくるのも実はチンダル現象のおかげ。

※5言うまでもないが、ISS、国際宇宙ステーションである。ミール・スカイラブはここでは宇宙ステーションに入れていない。