Dr.T:せっかちなやつだな。そういうのを科学的に言うと「あわてる乞食はもらいが少ない」と言うのだ。
助手:ぜんっぜんっ、科学的じゃありません!
Dr.T:そ、そうか?では今回は科学的な幽霊の存在の仕方について。
助手:科学的にって、どういうことです?
Dr.T:まぁ、あせるな。まず幽霊とは何か、という段階で死んだ人間の魂ではないか?という話があったな。
助手:前編で僕が言いました。
Dr.T:では魂とは何ぞや?という話になる。
助手:魂ってのはDrが否定したのでは・・・?
Dr.T:そんなことを言ったか?
助手:え?でも魂が循環しないって・・・。
Dr.T:魂の循環については否定したがな、魂そのものを否定したわけではないぞ。
助手:・・・魂の存在は認めるんですか?
Dr.T:・・・肯定したわけでもないぞ。
助手:どっちなんですか!?
Dr.T:科学は観察と論証からなると言っているだろう?魂が実在するかどうかは観察が不可欠だ。
助手:ど、ど、どーやって?
Dr.T:イタリアの医学者サントリオ※1は30年以上も秤の上で過ごして食事の摂取量と排泄量の関係を調べた。一説によれば死ぬ間際まで秤の上にいて臨終の際の重さの変化を弟子に調べさせたという。その際に35g〜42gとまちまちだが、確かに軽くなったという話がある。
助手:そ、それじゃあ魂は実在するんですね!?
Dr.T:かも知れん。しかしそうなると厄介なことになってくる。
助手:そりゃそうでしょう?心霊写真をインチキだって言い張っているんですから。
Dr.T:・・・嘆かわしい・・・。いいのかね?魂が物質だとすれば、それは今までの幽霊とか心霊現象というものを根本から否定してしまうのだぞ?
助手:な、なんで〜〜〜!?
Dr.T:幽霊はどのような活動をすると思っている?
助手:そ、そりゃ、目に見えなくて、空飛んだり壁を突き抜けたりしてどこにでも現れて、生きている人間に呪いとかポルターガイスト※2とか何らかの影響を与えて・・・。
Dr.T:質量(重さ)のある物質であれば幽霊が空に浮くことなどできない。我々と同じ重力に支配されてしまう。
助手:え、で、でもたった35g〜42gくらいでしょ?
Dr.T:ではこの1円玉40枚を何もせずに宙に浮かせてみたまえ!
助手:ひぃぃぃ〜!そ、それは・・・、その風とか電磁波とか・・・。
Dr.T:密度さえ軽ければ、風や静電気で浮いてもおかしくない軽さだからな。しかしということは!
助手:ということは?
Dr.T:物質で構成された幽霊は風や静電気に弱く自分の意思?で移動するのが極めて難しい!良く窓の外に立つ幽霊とか言うが、カーテンにウールでも混じっていれば静電気で引っ張られて動けなくなってしまうに違いない。しかも何かに触れた瞬間静電気が逃げて落っこちてしまうだろう。そのうえ物質である以上、どうやっても壁を通りぬけられたりはしない。
助手:うーん、幽霊って感じがしないなぁ(泣)
Dr.T:ポルターガイスト現象なぞ、どうやっても起こせんぞ。なにせ自分より重いものばかりだ(笑)
助手:あ〜〜〜、な、情けない幽霊になってしまった・・・。
Dr.T:そんな幽霊を構成する元素とは一体何か?
助手:モノの本によると「幽子」とか「霊子」※3とか書いてありますが?
Dr.T:現在人類が確認できている元素は100を越える。この世の物質はすべて元素の組み合わせでできていると考えられるから、おそらく「幽子」とか「霊子」なども元素の組み合わせで出来ていなければならないが、そうなると一定の密度を持たないとばらばらに拡散してしまうし、なにより未知の元素は重いものばかりだ。空気よりも軽い水素やヘリウムは元素番号で言えば1番とか2番。既知の元素だ。これらは常温では気体として存在し、固体になりにくい。言うまでも無いが・・・・。
助手:気体で生命体ってのは、今のところ存在していないっていうんでしょ(泣)
Dr.T:君も進歩したな。そのとおりだ(笑)
助手:で、でもぉ〜(号泣)
Dr.T:まぁ、泣くな(笑) 霊魂やらなにやらが、存在しない、もしくは存在してもたいしたもんじゃない、というのは既存の科学的考え方によるものにすぎない。世の中には科学で割り切れないものも数多く存在する。
助手:ぐしゅ、ぐしゅ・・・と言うと?
Dr.T:前回も言ったが信仰と科学はまったく別のものだ。何かを信じてそのために努力をする、というのは否定されるべきではない。
助手:じゃ、じゃあ幽霊や霊魂の存在を信じていても良いんですね?
Dr.T:うむ。幽霊に呪いだの恐怖だのを期待して、ただのレクリェーション的に怖がるだけなら、罪は無い。非科学的ではあるがな。しかし!
助手:しかし?
Dr.T:世間にはそれを悪用する輩が少なくない。他人を怖がらせて楽しむ程度の者から、命の危険まで匂わせて法外な金をむしりとる悪徳商法の業者までさまざまだ。問題はこうした霊感商法すらまったく盲目的に信じてしまう人がいるということなのだ。
助手:お金ですね?
Dr.T:そう、法外な金を請求されたり、脱会が不自由だったり、批判的なことを言うと徹底的に弾劾されたり、というのは金儲けや名誉・自己満足の組織であって信仰とは無縁のものだ。本当に神を信じるならば代償を求めずに信じる道をひたすら行くが当然だ。
助手:信じるのは勝手だけれど、他人を巻き込むな、ってことですか?
Dr.T:相変わらず君は極端だな、信じる人だけが信じればいいし、その手段は正当でなければならない、と言っているだけだ。
助手:結局、幽霊っているんですか?いないんですか?
Dr.T:観測できる現象が存在しないものは科学の対象にならんよ。リンゴが落ちるという現象から万有引力が導き出されたように、幽霊に起因する現象がなければ研究しようもない。
助手:・・・・心霊写真は・・・・ダメなんですね?
Dr.T:もし無重力状態で木のてっぺんからリンゴを根の方に投げても「落ちた」ように見える。しかしそれをもって「無重力でも重力はある!」とは言えないだろう?それは慣性であり、重力ではないにもかかわらず、同じような現象を起こすことは出来る。つまりあらゆる可能性を排除して残ったものが真実だ。たとえそれが受け入れがたいものでもな。心霊写真が人工的に撮影できる可能性がある限り、幽霊存在の証拠にはならない。
助手:・・・・うーん・・・霊媒師とかは?
Dr.T:20世紀の偉大なマジシャン、ハリー=フーディニも晩年、亡くなった母親を霊媒師に呼び出してもらったが、英語の話せない母親が英語で話したのに失望し、霊媒師のペテンを次々と暴いていったという。憑依・憑霊という現象も人間の心の闇がある限り、科学的根拠にはならないな。
助手:・・・幽霊の呪いとか?
Dr.T:呪い、まじないの類は人間心理を応用するものだ。正式な呪いでは必ず呪う対象に呪われていることを暗に知らせる。そうすると「呪われている」人間が不安や疑心暗鬼、ストレスで自分から具合が悪くなってしまうのだ。
助手:・・・ミイラの呪いはぁ〜?
Dr.T:有名なツタンカーメンの呪いだな。1922年に発見されたツタンカーメン王のミイラの発掘に関わった人が次々に死んだというヤツだ。しかし、最初に亡くなった発掘スポンサーのカーナボン卿の死因は毒虫に刺されたことだ。
助手:へ?
Dr.T:人間は長年暮らした地域でさまざまな虫に刺されたり病気にかかったりして「免疫」を獲得していく。しかし、エジプトに限らず、いったん国外に出てしまうとその免疫※4は役に立たない。何せ人体にとって未知の菌やら毒やらが襲ってくるのだからな。その後亡くなった人も心臓マヒ、病死と原因がはっきりしている。まぁ一方で一緒に発掘に参加した人は気が気でなかっただろう。なんせ次々と知り合いが死んでいく。さぞ不安と恐怖にさいなまれたことだろう。
助手:・・・・あ!
Dr.T:そう、これは前述の「呪い」と同じパターンだ。現に亡くなった23人の中には自殺者もいた。
助手:・・・・ううううう。
Dr.T:1962年カイロ国立研究所の研究者が呪いの正体はミイラを包む布に潜むウィルスが原因とした。ファラオの墓のように何千年も閉鎖された環境では未知のウィルスがいてもおかしくないからな。HIVやエボラ出血熱のように※5レトロウィルスが原因なら当時の医学で治療不可能というのも納得できる。まぁウィルスが「呪い」だとすればずいぶん科学的だ。治療法の無いウィルスは法的には凶器とみなされるしな。計算してやったとしたらたいしたものだろう。
助手:くぅうぅぅう。
Dr.T:何より、直接発掘した最大の功労者、ハワード=カーターは66歳まで生きて、天寿をまっとうしたといえる死を迎えた。彼の口癖は「ファラオの呪いなど無い!」だったという。
助手:せ、赤外線カメラで幽霊の姿をとらえたりしてますよね?
Dr.T:・・・赤外線は温度の高いものほど明るく写る。つまり赤外線映像でハッキリ写れば写るほどそれは温度のあるもの、と言える。そうすると面白いことが出来る。何かを温めて赤外線カメラの前に出せばそれが光ってなくても光って見える。普通のカメラでは光って見えないものが赤外線カメラでは光って見える!・・・とまぁトリックにはもってこいの機械だな。
助手:・・・・わかりました。呪いなんか無いんですね。
Dr.T:というよりは、科学的に言えば根拠は無い、ということだ。しかしそれにより精神を病んだり、病気になったりする人は実際に存在する。科学だけでは100%人の心を納得させることはできない、ということだな。占い師や祈祷師によって長年の慢性病が治ったとかいう事例もあるからな。
助手:あーもう何がなんだか!どっちなんですか?死後の世界はあるんですか?ないんですか?どっち?
Dr.T:観測できない事象は推論でしか語れない。実証できない推論は非科学的と言うよりは無意味だな。まぁ、あると思う人にはあり、無いと思う人には無し、でいいんじゃないか?
助手:そ、そんないいかげんな〜?
Dr.T:なら実証してみようか?今すぐここで死んでみたまえ。少なくとも君自身は死後の世界を観測できるぞ。
助手:え、遠慮しま〜す!いいかげん、ばんざーい!!
※2 騒霊現象と訳される。幽霊により戸棚の食器や本棚の本が散乱する現象を指す。多くの場合飛ぶ瞬間そのものを誰も見ていないし、思春期の子供達のまわりで起こることが多い。
※3 もちろん実在は確認されていない想像上の物質。
※4 といっても免疫システムが無くなるわけではなくて、今まで経験してない毒物・病原菌により免疫機能が機能しなくなるということである。また過敏反応を起こした場合にも生命にかかわる。初めて蜂に刺されたあと、2回目で劇症的な免疫反応の結果死に至るケースがある。これをアナフィラキシーショックと呼ぶ。
※5 RNAウィルスとも言う。ウィルス(ビールス)は細菌よりも小さく、また自らは増えない。生物の体内に入ってのみ増殖が可能。その際に自分の遺伝子(DNA)を使うのが一般的なウィルスで、レトロウィルスは逆転写酵素(RNA)を用いて増殖する。また動物の体内にあっても発病しないが、人間の体内に入ると発病するウィルスもある。インフルエンザウィルスのように、人類が何十年、何百年つきあってきていても死者が出るくらいなので、人類にとって未知のウィルスは基礎研究から始めなければならず治療法を探っている間に死者が増えることも少なくない。